本記事では「西国三十三所巡り」等を示す三十三観音(→「33カ所の観音信仰の霊場」という意)ではなく、後世に中国などで発展した、楊柳観音や白衣観音を含む三十三観音について書いています。
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三十三観音とは?
『観音経(※1)』というお経によれば、観音さまは、三十三ものお姿に変身できるそうです。
(※1)厳密には『法華経』の「観世音菩薩普門品第二十五」
あるときは、お金持ちのご婦人だったり、またあるときは小さな子供の姿だったり。
インドの神様や怪鳥の姿、なんてことも!(「観音三十三応身図」より)
救いの手が届きやすいよう、相手の性格や状況に応じて姿を変えるんですね。
この「33の姿に変身できる」というエピソードを基に、後世の中国で考え出され、さらに日本の文化も入って独自に発展した(らしい)のが「三十三観音」。
本来の仏教色よりも、民間信仰的な面が強いのかな、というイメージです。
本来の「三十三応身」から別途発展した概念なので、仏教のお経には三十三観音メンバーの名は出てきません。
つまり、お寺によくいらっしゃる定番の観音さま(千手観音や十一面観音など)とは別の系統になる感じです(ややこしやー)。
分かりやすくするために(乱暴かもしれませんが)まとめると
千手観音や十一面観音など:本家(大乗仏教の発展とともに成立)
三十三観音:のちに派生(民間的、近世的)
という感じでしょうか。
ちなみに、「西国三十三所巡り」などで拝観するのは、本家の六観音(聖・十一面・千手・如意輪・馬頭・不空羂索 or 准胝)のいずれかです(三十三身から発展した考え方の「三十三観音」はほぼ入っていません。お経に登場しないので当然ですが)。
三十三観音にはどんな観音さまがいる?
日本で三十三観音とされているメンバーは、江戸時代に刊行された『仏像図彙(ぶつぞうずい)』が元になっているようです。
インド起源だったり、中国発祥だったり、日本で独自に発達した存在だったり、いろんな方が含まれています。
元のお経を踏襲しているというよりは、独自に発展した考え方なので、あまり聞いたことがない名前の観音さまが多いのではないかと思います。
私が知っているのは、
・楊柳観音(ようりゅうかんのん)
・白衣観音(びゃくえかんのん)
・龍頭観音(りゅうずかんのん)
くらいでした。
ちなみに、三十三観音の一覧は、というと。
(wikipediaより引用させてもらいました)
三十三観音の名称
- 楊柳(ようりゅう)
- 龍頭(りゅうず)
- 持経(じきょう)
- 円光(えんこう)
- 遊戯(ゆげ)
- 白衣(びゃくえ)
- 蓮臥(れんが)
- 滝見(たきみ)
- 施薬(せやく)
- 魚籃(ぎょらん)
- 徳王(とくおう)
- 水月(すいげつ)
- 一葉(いちよう)[注釈 12]
- 青頚(しょうけい)
- 威徳(いとく)
- 延命(えんめい)
- 衆宝(しゅうほう)
- 岩戸(いわと)
- 能静(のうじょう)
- 阿耨(あのく)
- 阿摩提(あまだい)
- 葉衣(ようえ)
- 瑠璃(るり)
- 多羅尊(たらそん)
- 蛤蜊(こうり、はまぐり)
- 六時(ろくじ)
- 普悲(ふひ)
- 馬郎婦(めろうふ)[注釈 13]
- 合掌(がっしょう)
- 一如(いちにょ)
- 不二(ふに)
- 持蓮(じれん)
- 灑水(しゃすい)
引用元 観音菩薩 - Wikipedia
本記事では楊柳観音と白衣観音と龍頭観音を紹介したいと思います。
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楊柳観音(ようりゅうかんのん)とは?
手に柳の枝を持っているので、「楊柳観音」というお名前になったようです。
柳のようにしなやかに願いを聞き入れてくれる、という面もあるのだとか。
また、楊枝は歯間をきれいにするのに使いますので、病が口から入るのを防ぐとか、口業(ことばがもとで善悪を招く)を清浄にする、といった願いが込められてきたようです。
楊柳観音像の実例
楊柳観音は仏画に描かれることは多いようですが、像としての作例はあまりないようです。
奈良 大安寺
楊柳観音といえば大安寺ですね。
観音さまは、基本的には穏やかな表情で、忿怒相をしているのは馬頭観音のみなのですが、大安寺の楊柳観音は忿怒相に近い表情。
口を開けて歯を見せているのも、「口を清浄に」という願いの現れなのでしょうか。
拝観レポート>>>【奈良】◆大安寺 - 彫像としては珍しい楊柳観音像(奈良時代)必見
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白衣観音(びゃくえかんのん)とは?
白衣観音はインド発祥。
病が流行したときに楊枝と水瓶を持って現れ、呪文を伝えたといわれます。
観音さまには性別はありませんが、白衣観音は女性的な表現をされることが多いですね。
白衣観音像の実例
日本において、白衣観音といえば巨像のイメージがありますよね。
たとえば
・仙台大観音
・大船観音
・高崎白衣観音
など
いずれも、昭和~平成に建てられた比較的あたらしい観音さま。
「白衣(びゃくえ)」なので、皆さん白いお身体です。
地元の有志の方や、地元の実業家が建立に関わっているので、民間信仰的な面が強いです(三十三観音の成り立ちとも合致しますね)。
上に挙げた大観音のうち、完成が最も古いのは高崎白衣観音。
高崎 慈眼院 (高崎白衣観音)
昭和11年に高崎の実業家の方によって建立。
現在はお寺の管理となり、高崎の街を見守っています。
巨像って、なかなか不思議な感じがしますよね。
胎内にも入れるのがおもしろい。
拝観レポート>>>【群馬】◆高崎白衣観音(慈眼院) - 一度は入っておきたい巨大観音の胎内
shishi-report-2.hatenablog.com
龍頭観音(りゅうずかんのん)とは?
龍に乗る姿の龍頭観音。
龍を通じて水(雨、滝など)を支配する観音さま、という感じのようです(資料が少なく詳細不明)。
上記写真は、佐藤朝山(のちの佐藤玄々)の作品。
東京国立博物館で観ることができます(※展示は定期的に変更となりますので、公式サイトで出陳リストをご確認ください)。
>>>東京国立博物館 - 展示 今週の展示替え情報
(過去記事)>>>【東京国立博物館】 - 「教科書で見たことあるかも」近代美術なら本館18室
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おわりに
「観音さまは33の姿に変身できる」というエピソードにちなんで、のちに考え出された三十三観音。
厳密ではないかもしれませんがまとめると
千手観音や十一面観音など:本家(大乗仏教の発展とともに成立)
三十三観音:のちに派生(民間的、近世的※)
というイメージでした。
(※近世的といっても、大安寺の楊柳観音は奈良時代の仏像なので、「大乗仏教より後」くらいの感覚ですかね)
ちょっとややこしくて、私自身もまだ勘違いしていることもあるかもしれません。
(わかり次第、加筆修正します)
参考文献
お経と仏像で仏教がわかる本【完全保存版】 (洋泉社MOOK)
参照サイト