八部衆(はちぶしゅう)とは?
八部衆は、釈迦如来に忠誠を誓い、その教えを広める手助けをする8種の神々の総称(グループ名)。
元は古代インドの神々でした。
なかには悪いことをしていた鬼なども含まれていますが、釈迦の説法を聞いて改心し、釈迦に仕えるようになりました。
日本で八部衆が信仰されていたのは奈良時代のみで、仏像の作例は少ないようです。
実質的に、ほぼ唯一の作例が奈良・興福寺の八部衆像となりますので、それを踏まえながら説明していきます。
ではまず、八部衆を構成するメンバーを見ていきましょう。
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八部衆のメンバー
〇 天(てん)
天とは、帝釈天や梵天などをはじめとする「天部」の総称となります。
→興福寺八部衆の「天」は五部浄(ごぶじょう)
興福寺では、五部浄を最初に置くことで「天部」を表しているそうです。
上半身のみで、下半身は失われてしまいました。
頭に象(陸で最大の動物)の冠を被っています。
〇 竜(りゅう)
竜はヘビを神格化した存在で、龍・龍王とも呼ばれます。
雨を降らせる力があります。
→興福寺八部衆の「竜」は沙羯羅(さから)
興福寺のお像は、頭にヘビを巻いています。
少年風のつるっとしたお顔とヘビ、なかなかのギャップです。
〇 夜叉(やしゃ)
夜叉は空を飛ぶ鬼神でしたが、改心して仏教の守護神となりました。
ちなみに、薬師如来の眷属である「十二神将」も夜叉のカテゴリです。
→興福寺八部衆の「夜叉」は鳩槃荼(くばんだ)
鳩槃荼(くばんだ)には、いろんな役割があるようで、興福寺ウェブサイトによると
・梵天がつくった水を守る神
・死者の魂を吸う悪鬼
・毘沙門天の部下
・増長天の部下
など。
興福寺のお像は、忿怒相で、髪を逆立ています。
ほかのお像が比較的穏やかなので、目立ちますね。
〇 乾奪婆(けんだつば)
帝釈天のお宅に仕え、音楽を奏でて神々を供養する存在。
また、神々が飲む蘇摩酒(そましゅ)の番人を担当。
お酒の番人ですが、乾奪婆自身はお酒を飲みません(だから番人なのか)。
お肉も食べず、お香ばかり食べるのだそうです。
密教では、胎児や幼児の守護神とされます。
興福寺のお像の例では、獅子のついた冠をかぶり、鎧を身に着けています。
目を閉じた静かな表情。
〇 阿修羅(あしゅら)
八部衆のなかで最も有名な阿修羅。
元は血気盛んなところがあったようですが、釈迦の教えで改心しました。
詳しくは
shishi-report-2.hatenablog.com
〇 迦楼羅(かるら)
頭が鳥で、身体がヒトという、鳥頭人身(半鳥半人)の姿をしています。
口から火を吐き、毒蛇(龍とも)を食べるという、なかなかアクロバティックな存在。
元は、ヴィヌシュ神(ヒンドゥー教の神)が乗る、のりものでした。
密教では、梵天もしくは文殊菩薩の化身とされるようです。
毒蛇を食べるので、手足で蛇を押さえつけている姿で表現されるようですが、興福寺のお像では見当たらないようです。
肩にスカーフを巻き、澄ましたような表情ですが、頭部が鳥なのでとてもインパクトがあります。
〇 緊那羅(きんなら)
乾奪婆と同じく、帝釈天のお宅に仕える音楽神。
「キン・ナラ」とは「人か、人でないか」という意味があるそうで、半神族だそうです。
興福寺のお像は、頭上に一本のツノがあり、額にはサードアイも。
〇 摩睺羅伽(まごらか)
元ヘビの音楽神(横笛を吹く)で、乾奪婆・緊那羅と同じく帝釈天に仕えています。
蛇首人身の姿をしています。
→興福寺の八部衆の「まごらか」は畢婆迦羅(ひばから)
興福寺のお像では、ひげをたくわえたヒト風のお姿。
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八部衆像の実例
奈良 興福寺 国宝館
阿修羅像が最も人気のようですが、8体がすべてそろっているのは珍しいのだとか。
仏師・将軍万福と画師・秦牛養の作といわれています。
奈良 法隆寺 五重塔 塔本四面具
法隆寺の五重塔の北面にある塑像群の一部。
暗い塔の内部をのぞきこんでむような形での拝観になるのと、小さいので、正直見えづらいかな、という感じがします。
実質的に、八部衆像としては、興福寺のお像がメインとなるのかなと思います。
おわりに
釈迦に従う8種の神々、八部衆。
半分鳥だったり、半分神だったり、ヘビを神格化した存在だったり、と多種多様すぎるメンバーです。
古代インドの神々(悪神)が(あまり姿を変えることなく)仏教に取り込まれていった結果なのですね。
当時のインドで、仏教のすごさを表すために必要なプロセスだったのでしょう。
何かが発展していく、広まっていくとき、その裏にはストーリーがあるのですね。
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参考文献
仏像の見方ハンドブック-仏像の種類と役割、見分け方、時代別の特徴がわかる (池田書店のハンドブックシリーズ)
お経と仏像で仏教がわかる本【完全保存版】 (洋泉社MOOK)
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