仏像、ときどきワンダー観光

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【基礎知識】千手観音の持ちもの一覧

千手観音の持ちもの

千手観音の持ち物のイラストを並べた表

千手観音のもちもの一覧(唐招提寺像の例)

初めて千手観音を拝観したとき、「いろんな持ちもの(※)持っているけど、あれは何ぞや? どういう意味があるんだろう? 何に使うんだろう?」と興味を持ちました。
(※)正式には持物(じもつ)といいます。

本記事では、千手観音の持ちものについて、一つずつ確認していきたいと思います。
個々の道具に関する詳しい説明は、下のもくじから飛べます。

 

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唐招提寺の千手観音の例

千手観音のイラスト

持ち物マップ(唐招提寺像の例)

紹介する順番について

千手観音のイラストに番号がふってある

紹介する順番

大きく分けまして
① 両手で持っているもの
➁ 右手(内側)
③ 右手(外側)
④ 左手(内側)
⑤ 左手(外側)
という順番で紹介していきます。

※全ての手には番号がついているのですが、そこまで調べきれなかったので、本記事では「下から順」に紹介しています。
どの手にどの道具を持つかは、お像によっても少し異なります
本記事にて紹介しているのは唐招提寺の千手観音の例となります。

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① 両手で持っているもの

宝鉢(ほうはつ):食器の一種

丸みのある皿のイラスト

宝鉢

合掌している手の下、お腹の前あたりに、両手で持っているのが「宝鉢(ほうはつ)」。

鉢(はつ)とは、仏像やお坊さん・尼さんが持つ食器の一種です。

インドでは古くから食器として使われていて、分厚い材料を薄くしてつくったような形。お皿よりも深く、瓶より口が開いたもの。

➁ 右手(内側)で持っているもの

※「観音像の右手」ですので、「拝観するときは、向かって左」となります。
下のほうの手から→上に向かう、という順で紹介しています。

数珠(じゅず)or 念珠(ねんじゅ):慈悲の心が次々と伝わることを表現

数珠のイラスト

数珠

数珠は、比較的身近な仏教法具で、どなたも見たことがあるのではないでしょうか。

本来は僧(お坊さん)の持ち物で、仏の名や真言を唱えるとき、その回数を数えるための道具(だから「数える珠」と書く)。

その一方で、
・一つひとつの珠=如来や菩薩(諸尊)
・珠を貫く線=観音菩薩
と例えられる場合もあります。

「観音の、苦を除き楽を与えようとする心(慈悲)が、ほかの如来や菩薩(=数珠の一つ一つの珠)に次々と伝わり、最終的に阿弥陀如来(※数珠の大きい珠が阿弥陀如来に例えられる。なお、阿弥陀如来は観音の別の姿)に還る」という様子を表しているものが数珠、ということですね。

つまり、仏像の持ちものとしての数珠は、慈悲の心が次々と伝わって大きな願いに至るということの表現と考えてよいのかな、と思います。

青レンゲ(青蓮華=しょうれんげ、青連=しょうれん):如来や菩薩の眼

青いつぼみの蓮華のイラスト

青蓮華


蓮華はいわゆる「ハス」のことで、インド原産の花。
ハスは「聖なる大地やその創造力の象徴の花」といったところでしょうか。

蓮華の開き方にもよっても意味があり、色も四(または五)色あります。

(色ごとの個々の意味づけは明確ではないようですが)
青蓮華は「如来や菩薩の眼」に例えられるという説も。
「如来や菩薩の眼が、優しい心と清らかな知恵によって輝いている」ということを表現しているようです。

錫杖(しゃくじょう):音の鳴る杖(ささやかな武器)

仏教法具の錫杖のイラスト

錫杖のイメージ

お地蔵さんが持っている姿もよく見かける、錫杖。

錫杖は、単なる杖ではなく、「特殊な神通力を持った武器に近いもの」という位置づけです。

頭が金属製(※)で、環っかがついているので、音が鳴ります。
(※)「錫杖」と書きますが、錫(スズ)製でななく、銅製です。
鳴る音を漢字で記したところ「錫」になったようです。

具体的な使い方は
・山道を行くとき、音を鳴らして毒虫や獣を追い払う
・(僧たちの)托鉢のとき、音を鳴らすことで、戸を叩いたり声を出さずとも家人の注意をひくことができる
・他家で飼われている牛や犬に襲われるのを防ぐ

たしかに、山道を歩くときは、クマよけの鈴をつけたりしますから、理に適っていますよね。

千手観音像が持つ場合は、「音を鳴らして悪いものをはらう」ということを表しているのかなと思います。

五鈷杵(ごこしょ):困難の多いものごとを成し遂げるためのシンボル

仏教法具の五鈷杵のイラスト

五鈷杵

金剛杵(こんごうしょ)のうち、峰のツメが5本あるものが五鈷杵(ごこしょ)。

なお、金剛杵とは「仏の知恵はダイヤモンドのように堅固である」ことを表すシンボル。

金剛杵の「金剛」はダイヤモンドによく例えられます。
ダイヤモンドの「光を反射する、何よりも硬い」という性質になぞらえて、「仏の知恵はあらゆる煩悩を砕く、どんな煩悩にも損なわれない」ということを表現しているわけなんですね。

五鈷杵のツメ5本は、五仏・五知を表している、など、いろんな説もあるようですが、修行者が持ち歩く場合は、内面の諸悪を追い払い、自身を浄化するためのもの、という面が強いようです。

すなわち困難なものごとを成し遂げるために助けとなるアイテムですね。

※ 五鈷杵ではなく、「三鈷杵(さんこしょ)」を持つ仏像もあります。
 基本的な意味合いとしては五鈷杵と同じと考えてよいかと思います。

③ 右手(外側)が持っているもの

胡瓶(こへい、こびょう):人々に配る財宝や秘薬が入っている容器

頭が鳥の瓶のイラスト

胡瓶

胡瓶(こびょう)は、財宝や秘薬の容れもの
水を入れる瓶(水瓶:すいびょう)とは別もので、宝瓶(ほうびょう)の一種です。

財宝や秘薬を入れてあるので、これを持ち歩けば貧しい人々に福徳を配布することができるんですね。

なぜ「胡瓶」という名称かというと、胡人(西域の民族)のアイデアによってデザインされたものだから。
瓶の先端が、迦楼羅(かるら)という鳥の頭部にかたどられているのが特徴です。

宝鐸(ほうたく):美しい音の鳴る鈴

持ち手のついた鐘のイラスト

宝鐸

一般には、宝鐸(ほうたく)は、お堂や塔の四隅の軒などに吊るす、大きな鈴の飾りを指すようです。
「風鐸(ふうたく)」と呼ぶこともあるようなので、風鈴のようなイメージですかね。

風鈴のようなものだとすると、その美しい音で、聞く人の心を静めるような効果がありそうですね。

※本記事で参考にしている『仏像の持ちもの小辞典』では、宝鐸についての記述がほぼ見当たらなかったので、新たに何かわかれば追記します。

鉞斧(えっふ、えっぷ):煩悩を断ち切る知恵の斧

斧のイラスト

鉞斧(えっぷ)

鉞斧(えっふ、えっぷ)は煩悩を断ち切る知恵の斧(おの)

斧といえば、ものを真っ二つに切断する道具ですね。
仏像が持つ場合は、「煩悩にまどう心」をバッサリと断ち切るための武器、仏の知恵の象徴となります。

蒲桃(ほとう、ぶどう):心身健全でいるためのくだもの

ぶどうのイラスト

蒲桃(ほとう、ぶどう)

ブドウは、神秘的な意味をもつくだものとして尊ばれてきたようです。
倶縁果(ぐえんか:レモンのような柑橘類)・吉祥果(きちじょうか:ザクロの実)などのくだものと同等と捉えてよいようです。

食べると気力がつき、体力も高まる、的なありがたいくだもの。
災いを避けて、心身とも健全でいるためのくだもの、ということのようです。

鉄鉤(てっこう):困難の多いものごとを成し遂げるためのシンボル

先が三つ又になり、その下に鎌がついている武器のイラスト

鉄鉤(てっこう)

鉤(こう、カギ)とは、金属の先を曲げて、ものをひっかけるような形の武器。
先端が三つ又になっているものが多いようです。

意味合いとしては、金剛杵と同じ系統のもので、煩悩をはらって、願いを成し遂げるためのシンボル、といったところのようです。

鉤(こう)は戟(げき)という武器に似ているので、同一視する説もあるようですが、唐招提寺の千手観音が持つ鉄鉤には、鎌のようなものも付随していますので、戟とはまたちょっと違う印象ですね。

宝箭(ほうせん):仏の知恵が速やかであることを表すシンボル

矢のイラスト

宝箭(ほうせん)

箭(せん)とは矢のこと。
左手に持っている弓とセットで、いわゆる「弓矢」の「矢」ですね。

弓矢は「速疾の象徴」となります。
仏の知恵が鋭く・速やかなことを表しているんですね。

「救うのが難しい人々を鋭い仏の知恵によって速やかに救うための目印」と解釈されることもあるようです。

宝剣(ほうけん):煩悩を滅ぼす知徳の剣

剣のイラスト

宝剣

千手観音以外の仏像でも、剣を手にしている姿はよく見かけます。
仏像の持つ剣の意味は、他人を攻撃するためのものではなく、自分自身の内部にある煩悩を滅ぼすためのもの。

宝鏡(ほうきょう):真実をうつしだす神聖な宝物

仏像が持つ宝鏡のイラスト

宝鏡

私たちにとっては身近なアイテムの鏡ですが、昔は「神聖な宝物」としての位置づけだったようです。

仏教的には、
・人の心の底をうつしだす
・秘密や邪念を明るみに出す
・悪いものの正体を映す
などと言われてきたため、僧はむやみに鏡をのぞいてはならない、とされていたのだとか。

白蓮華(びゃくれんげ):尊い仏法・仏身の象徴

つぼみの状態の白い蓮華

白蓮華

白い蓮華は仏の清浄さ、尊さを表すシンボル。

唐招提寺の千手観音は計4本の蓮華を持ちますが、いずれもつぼみの状態。
つぼみは、よりよい世界へと心を成長させる過程、と捉えることができるようです。

宝経(ほっきょう):巻物(or 折りたたみ式)にしたお経

巻物と冊子のイラスト

宝経

「経」という文字からもわかるように、宝経は巻物にしたお経(折りたたみ形式のものもあります)。

(千手観音もそうですが)お経を持つ仏像としては、観音像が多いようです。

『観音経』というお経にて、菩薩が人間社会で人間同様に活躍する姿が描かれれるのですが、そのさまが経巻を手にして立つ観音像と一致しているからだそう。

金輪(きんりん):悪を破って人々を守護する宝物

仏教法具の輪宝のイラスト

金輪

仏法を車輪の形で表現した「輪宝(宝輪)」。
このうち、金製のものを「金輪(きんりん、こんりん)」と呼ぶようです。

輪宝の、放射状になったスポークの部分(輻)は様々な本数のものがあり、仏法を表現しています(例:六本→六道、十二本→十二因縁など)。

輪宝は、元々は手裏剣のように投げる武器。そこから派生して「煩悩や悪を打ち破る宝物」とされています。

また、「車輪」ですので、「進みゆくこと」の象徴でもあります。
千手観音がもつ金輪は、こちらの意味合いのほうが大きいという説もあるようです(不退転宝輪:ふたいてんほうりん)。

「仏道に入る者は悟りの心を断じて変えてはならない」という教えがあるそうなのですが、これを”後ろには転がらない”金輪になぞらえているのだとか。

宝印(ほういん):権威と責任のしるし

仏像がもつ宝印のイラスト

宝印

角型のスタンプのような形の宝印。
「佛(仏)」という文字や、仏教の象徴である「卍」が刻まれています。

そもそも印には、自己を明確に表現するもの、自分の権利と義務を明示するもの、という役割がありますから、宝印もまた、「権威を示すもの」「責任のしるし」という意味合いのようです。

月輪(がちりん):月への信仰の象徴

手の上に円形のものを乗せているイラスト

月輪

月をかたどった、円形の持ち物、月輪(がちりん、げつりん)。

月は古来より「大地の母」「雨のめぐみをもたらす水の神」と信仰されていたそうです。
月輪は、月への信仰のシンボルといったところでしょうか。

なお、仏像によっては、月輪ではなく、「月精魔尼(げっしょうまに)」という、月をかたどった珠(たま)を持っているケースもあります。
月精摩尼の場合は、月を表す円のなかに、モチをつくウサギが描かれています。

化仏(けぶつ):名もなき仏のシンボル

化仏のイラスト

化仏

千手観音の手の上にちょこんと乗せられている小さい仏像、化仏(けぶつ)。

○○如来、○○菩薩、といった特定の仏像ではなく、それらに付加された「名を与えられていない仏」のイメージです。

全ての生き物は、”成仏”(=仏に成る)するので、「仏」と考えることもできます。
そのような抽象的概念を表現したものが「化仏」です。

④ 左手(内側)が持っているもの

※「観音像の左手」ですので、「拝観するときは、向かって右」となります。

玉環(ぎょくかん):輪のかたちの装身具

環が二つ連なった玉環のイラスト

玉環

「環」とは囲い、円のこと。広い意味でいうと「丸い」こと。
釧(腕輪)と同じ類の装身具(アクセサリー)です。

唐招提寺の千手観音は環が二つ連なったようなかたち(手品グッズにありそうですね)の玉環を持っています。

紅蓮華(ぐれんげ):清らかさの象徴

赤色の蓮華のつぼみのイラスト

紅蓮華

蓮華の花の色がわざわざ分けてあるのは「他の色には決して染まらない」ということを象徴しています。

悪いものにも影響されない(=清浄)ということですね。

戟矟(げきしょう):悪を滅ぼす武器

長い柄の先が三又になっている武器のイラスト

戟矟

戟(げき)は、先端に枝のあるホコ。
三つ又の熊手のような形をしているものが一般的のようです。

矟(さく)は、馬上で用いるためのホコ。
馬上で用いるので短いのですが、それでも3.3メートル前後あります。

つまり、戟矟(げきしょう)とは、「先が三つ又になっている馬上用ホコ」といったところでしょうか。

仏像が持つときの意味合いとしては、他の武器類と同じで、内なる悪を滅ぼすための武器

独鈷杵(とつこしょ):内面の諸悪を払い、自身を浄化する

仏教の独鈷杵のイラスト

独鈷杵

独鈷杵(とつこしょ、どっこしょ、とこしょ)は、金剛杵(※)の一種で、太い棒の両端に槍先のような峰がついているもの。

(※)金剛杵は、「仏の知恵はダイヤモンドのように堅固である」ことを表すシンボル。内面の諸悪を打ち払う武器でもあります。

独鈷杵の場合は、「唯一無二の真実の仏界」「宇宙の真理」を表すとも言われます。

⑤ 左手(外側)が持っているもの

羂索(けんさく、けんじゃく):ひとり残さず救う仏の心を象徴

両端に金属がついた縄のイラスト

羂索

縄の両端に金属がついた羂索。

普通の網や縄では、届かなかったり、抜けてしまうことがあるけれど、仏教の羂索は、目標(悩める人々)から外れたりとり逃すことがないものです。

つまり、羂索は、「悩める人々全員救うぞ」という仏の慈悲の心を象徴するアイテムなんですね。

なお、別の解釈もあるようです。
●仏の心が通じない者を捕らえ、悟りに導くための道具
●よこしまな心を封じるための道具
●人々の心をつなぎ合わせるための道具

基本的には、悪いものをしばるというよりは、「全て救う」という意味合いのほうが強いようです。

軍持(ぐんじ):清めるための水が入っている容器

水瓶のイラスト

軍持

軍持(ぐんじ)は、きれいな水(清めるための水)の入った容器のこと。
別名で「水瓶(すいびょう)」「澡瓶(そうびょう)」と呼ばれることもあります。

ちなみに、千手観音は、右手にも花びんのような瓶を持っていますが、そちらは宝瓶(前述)で、人々に配るための福徳が入っているものです。

宝瓶と軍持は、似たような形のビンですが、入っているものが違うのですね。

楊柳(ようりゅう):香木でつくられたつまようじ

木の枝のイラスト

楊柳

楊柳(ようりゅう)は、いわゆるつまようじ
細い木の枝の先端をとがらせたものです。
使い方は今と同じで、歯間や舌のそうじに使います。

なお、柳という字が入っていますが、必ずしも柳の枝ではなかったそうです。
かみしめるとハッカのようなにおいがする木は、口臭対策としてよく用いられたようです。

払子(ほっす)(白払=ひゃくほつ とも):身につきまとう邪魔なものを払う道具

柄の先に長い毛のついた道具のイラスト

払子(百払)

長い柄の先に、獣の毛や麻の繊維を束にして取り付けた払子(ほっす)。
毛が白いものを白払(ひゃくほつ)といいます。

元々はお坊さんが持つ道具で、虫やチリやゴミを払う実用品。
そこから派生して、身につきまとう邪魔なものを払う道具となったようです。

傍牌(ぼうはい):仏事を知らせる告知板

食パンのような形の傍牌

傍牌のイメージ

傍牌は、もともとお寺で日常的に使われる掲示板・告知版

いわゆる立て札のようなイメージで、お坊さんたちに日課を知らせたり、一般の人に向けて行事を知らせるために使われてきたそうです。
お寺の実用品が、千手観音の持ち物になった、というわけですね。

千手観音の持つ傍牌は、木札とは思えないような複雑なデザインが特徴。
鬼の頭部や帝王の仮面をかたどった彫刻をあしらってあったり、鈴がついているものも。

唐招提寺の千手観音の持つ傍牌は、食パンみたいな形をしています(※彫刻部分はよく見えなかったので、上のイラストは想像で描いています)
右手に持っている手鏡がフライパンっぽくも見えるため、僧侶の方が「フライパンとフレンチトーストみたいでしょ」とおっしゃっていました。
そう聞くと、一気に親近感がわきますね。

髑髏宝杖(どくろほうじょう):現生の迷いや欲をうち砕く道具

棒の先に髑髏がついている道具のイラスト

髑髏(髑髏宝杖)

棒の先に髑髏(ドクロ=頭蓋骨)のついた髑髏宝杖(どくろほうじょう)。
千手観音の持ち物の中でも、かなりインパクトの強いアイテムですよね。

ドクロは、仏教においては、「人間の生身のはかなさを悟る」ための手段として用いられます。

白骨化した故人の姿を目の当たりにすると、「ああ、自分もいつか死ぬのだな」と実感したり、「それだったら今できることを精一杯やろう」「惰性で生きるのをやめよう」と現生の迷いや欲から覚めることができるというわけですね。

また、ドクロには、人間が犯すの罪・悪の重みをはかる、「裁きの象徴」という面もあります。

髑髏宝杖は、錫杖(しゃくじょう)の一種ではありますが、杖というよりは「(とう):飾りのついた柱状の荘厳具、仏法の勝利のしるし」に近いものだそうです。

つまり、人生のはかなさを感じたり、自身の内なる悪を追い払ったりするための道具、というような位置づけになるかと思います。

宝弓(ほうきゅう):仏の知恵が速やかなことを示すシンボル

弓のイラスト

宝弓

右手に持っている矢(宝箭:ほうせん)とセットの弓。
宝箭と同様に、仏の知恵が鋭いこと・速やかなことを示すシンボルです。
救うのが困難な人々に対しても、弓矢のようにすばやく・鋭い知恵で導く、ということですね。

宝螺(ほら):楽器の一種

ほら貝のイラスト

宝螺(ほら貝)

ほら貝を吹くと「ボワー」という感じの音が鳴るのを、テレビ等でご覧になったことがある方も多いのでは。

仏を供養するために音楽を奏でますが、そのときに楽器の一種として活躍するのがほら貝。

五色雲(ごしきうん):不老不死を象徴する雲

すそを引く五つの雲のイラスト

五色雲

五色雲(ごしきうん)は、不老長寿の象徴
千手観音のみが持つアイテムです。
五色雲をもつ手(五色雲手)に長寿をお願いすると叶うとされています。

仏教でいう「五色(ごしき)」は、白、黄、赤、黒、青。
『覚禅抄』というお経によれば
白(信):信心、まこと
黄(進):精進
赤(念):心に強くとどめること
黒(定):雑念をはらって心を清らかにすること
青(慧):悟り・知恵
の意味になぞらえられるそうです。

(※)密教ではまた別の解釈となります。

紫蓮華(しれんげ):清らかさの象徴

紫色のつぼみの状態の蓮華のイラスト

紫蓮華

蓮華(いわゆるハス)は「聖なる大地やその創造力の象徴の花」。

唐招提寺の千手観音が持つ蓮華は四本ともつぼみの状態。
つぼみは、よりよい世界へと心を成長させる過程、と捉えることができます。

蓮華の色が分かれているのは、「他の色に染まらない」ことを表現しています。

宝篋(ほうきょう):学問や知識のたくわえ

黒い箱のイラスト

宝篋

「篋」とは本来、竹で作った飯を盛る器(箱)のこと。
仏教では、箱や蔵は学問や知識のたくわえを意味します。

つまり宝篋とは「学問の宝庫」であり、宝篋を満たそうとする心がけは、如来の人格を養うことに相当するわけですね。

宝珠(ほうじゅ):願い事をかなえられる神秘的な宝物

火の上に珠が三つある宝珠のイラスト

宝珠

宝珠は、正式には「如意宝珠」のこと。
「意の如く」という字が入っていることからもわかるように、何でも叶えられる神秘の宝物です。

持っているとどんないいことがあるかというと、
・熱があるときは熱を冷ます
・冷えやかぜ→身につけると全治
・闇夜では明るくなる
・暑いとき→涼しさをもたらす
・寒いとき→暖をもたらす
・毒性のもの→すべて消滅
・濁った水→清らかに
(『大品般若経 第一』を参考)
などなど、いつも快適に過ごせるようにしてくれる魔法の珠。

そしてこの万能性は「仏の徳そのもの」とたとえられます。
珠のような徳を備えておれば、何も恐れることはない、ということですね。

なお、唐招提寺の千手観音が持っているのは、上のイラストに示したように宝珠が三つ乗っているものですが、一般的な宝珠といえば、こんなイメージでしょうか。

宝珠のイラスト

宝珠(一般的なもの)

こちらは、如意輪観音や地蔵菩薩などが持っているのをよく見かけますね。
仏像においては比較的定番アイテムという感じかと思います。

・宮殿(きゅうでん):仏と衆生が共に住む建物の象徴

雲の上に建物が乗っているイラスト

宮殿

宮殿は、娯楽浄土において、仏たちが暮らす場所。
美しく飾られた入母屋造りのことが多いようです。

仏に宮殿を献上するとやがてその宮殿に移り住める、とされているのだそう。
つまり、仏像が手にする宮殿は、仏と衆生が共に暮らす建物の象徴といった感じでしょうか。

なお、「仏が住む建物」から派生して、「宮殿=仏像や仏教的宝物を安置する小宝殿」という性質もあるようです。

・日輪(にちりん):太陽への信仰の象徴

手の上に朱色の円を乗せているイラスト

日輪

日輪は、太陽をかたどった円形の持ち物。

太陽は、「お天道様」とも呼ばれるように、神様として信仰されていました。
太陽がなければ生命は育ちませんから、「生命そのものの神」というわけですね。

なお、仏像によっては、日輪ではなく、「日精魔尼(にっしょうまに)」という、太陽をかたどった珠(たま)を持っているケースもあります。
日精摩尼の場合は、太陽を表す円のなかに、三本足のカラスが描かれています。

化仏(けぶつ):名もなき仏のシンボル(右手と同)

化仏のイラスト

化仏

 千手観音の持ち物のうち、唯一重複しているのが化仏(既出)。
両手にそれぞれ一体ずつ乗せています。

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まとめ

千手観音の持ちもののイラストが並べてある

持ちものマップ

たくさんのアイテムをお持ちの千手観音像。

各アイテムを調べていくうち、それらの本質を抽出すると、「人々が心身とも快適に暮らせることを願うもの」だと感じるようになりました。

昔は医療も衛生も発達しておらず、飢饉もありました。
災害、犯罪、野生動物との共生、様々な危険があったと思います。

そういった「不安・心配・苦しみが少しでも軽減しますように」という願いが、千手観音の持ちもの一つ一つに表れていると感じました。

それほどまでに、昔の生活環境ってシビアだったのでしょう。

現代日本では、食べ物に困ることは(一般的には)めったにないですよね。
エアコンも普及し、夏の暑さ冬の寒さも凌げます。
医療が発達して、市販薬も充実していますし、夜間診てくれる病院さえある。

そう考えると、昔の人が「こうだったらいいのにな」と思ってきたことの多くが、いま実現しているということですよね。

今ある環境は、(今を生きる人も含め)これまでに生きてきたたくさんの人々が、長い長い時間をかけて達成してきたということなんだな、と改めて実感しました。

以前は年配の人などに「昔はもっと不便だったのだから感謝しろ」と言われたら「それは事実なんだけど……昔の状態を体験してないんだから正直実感がわかないな」と心の中で思っていました。

でも、「昔は不便だった」ということを、千手観音の持ちものに込められた願いを通して理解しました。

ふつうに生きていると、「自分なんて何もなしえていない」と思いがちですが、大きな流れで見れば、未来の人に対して何かしらの役に立っているのかもしれないですね。

小さなことでも困りごとや不便なことを乗り越えていく、これをたくさんの人が積み重ねることが、のちの未来をよくするのかもな、と。

千手観音に限らず、ほかの仏像もまた、昔の人たちの願いを伝えてくれます。
私は、仏像を通して、過去の人々と対話しているのかもしれません。

参考文献

持物の名称・漢字・読み方は『魅惑の仏像2 千手観音』という本(下記リンクの古い版の本と思われます)を基本にしています。 

 また、個々の持物に関する解説は、『仏像の持ちもの小事典』をメインに参考にしています。

この本も一部参考にしています。

仏像の見方ハンドブック-仏像の種類と役割、見分け方、時代別の特徴がわかる (池田書店のハンドブックシリーズ)