2020年2月4日~3月22日に奈良国立博物館にて開催された「毘沙門天ー北方鎮護のカミー」観覧の記録です。
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毘沙門天(びしゃもんてん)について簡単に
仏教世界を守る存在といえば、四天王。
お寺のご本尊の周りに立っておられることも多いので、目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。
四天王のうち、北の方角を守るのが「多聞天(たもんてん)」。
多聞天は単独でも祀られることがあり、その時の名が「毘沙門天」となります。
グループとしても活動するし、ソロとしての出番もある、といった感じですね。
四天王としてではなく、「毘沙門天」としての特集が組まれているのが今回の展示。
全37軀の出陳で、数が多いというわけではないのですが、見ごたえが尋常でなかったです。
全ての仏像について語りたいレベルですが、各章から一軀ずつに絞って感想を記します。
仏像の感想
① 独尊エリア
最初に迎えてくれるのは、単独で祀られているタイプの毘沙門天たち。
毘沙門天としての「スタンダード」な形式、という感じでしょうか。
本展示では22軀(うち2軀は期間が限られているので注意)。
ほとんどが立っているお姿ですが、座像も2軀ありました。
私にとって、一番印象深かったのは、岐阜の華厳寺所蔵の「毘沙門天立像」。
(ポストカードを購入したので、そちらを撮影したものを載せます)
甲冑をつけ、宝塔を持ち、邪鬼を踏んでいるので、毘沙門天としては一般的なお姿と言えそうですね。
宝塔を高く掲げているスタイルをよく見かけますが、こちらの毘沙門天は手のひらにちょこんと乗せている感じです。
ムスッとはしておられますが、憤怒というほどの表情でもなく、どこかリアルっぽさがあります。
個人的に推したいポイントは、甲冑についている獣?の表情。
写真だと魅力が伝わらないかもしれないんですが、実物はゆるキャラっぽくてすごくかわいいんです。
ゆるキャラっぽさが伝わるように簡単なイラストにしてみましたが……似てない(汗)
かなり癒されました。
グッズほしい。
あと!
邪鬼を踏んでいるのですが、この邪鬼がまたいい味を出していまして。
びっくりしたような表情も良いのですが、頭髪がないせいでしょうか、鬼というよりも愛嬌あるおじさんっぽくて憎めない。
② 毘沙門三尊エリア
日本では毘沙門天の奥さんは吉祥天(きっしょうてん)であるという考えが古くからあったらしく、また、『法華経』内で、毘沙門天のお子さんが善膩師童子(ぜんにしどうじ)と説かれているので、この一家をひとまとまりで祀るケースもあります。
一番有名なのは京都鞍馬寺の毘沙門三尊像でしょうか。
国宝ですし、「毘沙門天といえば鞍馬寺の……」みたいな雰囲気があるので、仏像の本などでは写真が載っていることが多いですよね。
本展示でも、チラシや看板に載っているメインキャラといえるでしょう。
『奈良国立博物館だより』の表紙にも。
遠くを見通すようなしぐさがいいですよね。
ちなみに、この腕は後補らしいです(石井亜矢子『仏像の見方ハンドブック』p.99より)。
写真で見ても、「すごい迫力あるなー」と思っていたのですが、実物は想像以上の見ごたえ。
身体がどっしりとしていて、腰回りの重厚感がすごい。
トチノキの一木造り(一本の木からまるごと彫っている)ってのがまた驚きで。
平安時代に造られていて、ここまできれいな状態で残っていることもすごい。
この毘沙門天の右側に吉祥天、左側に善膩師童子、という並びです。
奥さんの吉祥天(後に再興されたもの)は優しいお顔。
衣の裾が一部フリルのようになっていて、女性的でかわいらしかったです。
子供の善膩師童子(毘沙門天と同年代の作)は、真面目そうな表情。
美豆良(みづら)というおだんごヘアがかわいいです。
このエリアは他にも湛慶作の毘沙門三尊や、米国の美術館が保管しているカラフルで大きい毘沙門天も展示されているのですが、見ごたえ抜群でした。
実物を見ると、あまりの迫力に「写真とは受ける印象が全然違うな」と驚かされます。
③ 双身毘沙門天エリア
二体の毘沙門天が背中合わせになって立っている、珍しい形。
天台宗の特別な修行を行うときに祀る尊像なのだとか。
3軀のみの展示です。
他の2軀とはどうも別系統らしいですが、東大寺所蔵の「勝敵毘沙門天立像」が一番見やすかったです(他の2軀はとても小さい)。
口から出ているロープのようなものは牙で、その牙で互いの双身がつながっているという、なんとも不思議なお像。
他の2軀はとても小さいので、単眼鏡があると良いかも。
④ 「兜跋(とばつ)」系の毘沙門天エリア
毘沙門天には兜跋(とばつ)という系統もありまして。
中国・唐時代の西域に、護国のカミとして出現したという伝説の持ち主。
このエリアで一番見ごたえがあったのが、唐から渡ってきた「兜跋毘沙門天立像(9世紀に造られたもの! 国宝!)」。
けっこう大きいです(2メートル近い)。
舟で唐から運ばれてきたのかと思うと、「よくぞ無事に辿り着かれました!」と言わざるを得ません。
まず注目すべきは、そのお足元。
地天女の手のひらの上に立っている、というアクロバティックさ。
堂々たる毘沙門天を涼しい顔で持ち上げている地天女にも驚かされますね。
地天女の両側は、「尼藍婆(にらんば)、毘藍婆(びらんば)」という邪鬼コンビ。
「婆」とついていることからもわかるように、女性です。
元は悪いことをしていたのですが、仏教を聞いて改心したらしい。
つづいて注目していただきたいのが、甲冑の模様。
細かい幾何学模様に目を奪われます。
模様が美しい上、甲冑として破綻のない形になっています。
幾何学模様部分をジッと見ていると、エッシャーの不思議絵に取り込まれていくような、ちょっと混乱を伴うような感覚になりました。
どこをどう彫ったらこうなるんだろう??
目をひんむいていて、ギョロっとさせているのも、愛嬌を感じます。
全体的にすばらしかったです。
撮影スポット
展示を観終わり、1階に降りると、撮影スポットが。
これはテンション上がりますね。
パネルの写真も立体的で素晴らしい。
グッズ
尼藍婆・毘藍婆のイラストのアップリケがかわいかったです!
モデルはこのおふた方(奈良西南院所蔵)。
実物は木の色がでていますが、アップリケのほうの身体は赤と緑でした。
緑鬼のほうは、ハンカチもありました。
あとは、兜跋毘沙門天のキーホルダーなんかも。
布地に刺繍が施してあり、中に綿が入っていてかわいかったです。
もちろん、定番のポストカード、マスキングテープ、クリアファイル類もあります。
おわりに
けっこう前から楽しみにしていたのですけど、想像以上に見ごたえがありました。
スタンダードタイプの毘沙門天もいいですが、三尊スタイルや兜跋スタイルは普段あまり見られないので、やはり興味深かったです。
それほど混雑もしていなかったので、2~3周してしまいました。
(毘沙門天に関するほかの記事)
shishi-report-2.hatenablog.com
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