海龍王寺(かいりゅうおうじ)
近鉄新大宮駅から徒歩15分。
法華寺にも近いので、合わせて拝観されるのがおすすめ。
国宝の十一面観音像を目当てに訪れる方がほとんどだと思いますが、お寺自体もなかなか独特の経緯をたどっていて、興味深いです。
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縁起がドラマチック
「海龍王寺」って名前からしてカッコいいですよね。
元々は、付近一帯を治める土師氏ゆかりの寺院だったそうです(創建は飛鳥時代!!)。
平城京遷都の際、藤原不比等がここに邸宅を構えることになるのですが、寺院を取り壊さなかったため、邸宅内に残りました(つまり、710年より前からここに存在していたということ!!)。
のちに不比等の娘、光明皇后が邸宅を相続して「皇后宮内寺院」となります。
731年、唐に留学していたお坊さん、玄昉さんが帰国。
聖武天皇・光明皇后は、最新の仏教を国づくりに生かしたいと考えており、玄昉さんをこのお寺の住職に任命。
ここから「海龍王寺」としての歴史が始まります。
というのも玄昉さん、唐からの帰り、東シナ海でとんでもない暴風雨に遭遇するのですが、海龍王経を一心不乱に唱えたところ、なんとか種子島に漂着、平城京に戻ることができたそうです。
海龍王のご加護のおかげ、ということから「海龍王寺」になったというわけですね。
宮廷のためのお寺として繁栄したようです。
(ちなみにその後、玄昉さんは藤原広嗣に陥れられそうになったり、けっこう波乱万丈。晩年は行方不明になったようです)
詳しく知りたい方は海龍王寺の縁起をマンガにしたパンフレットがホームページからもご覧になれます。
縁起をしっかり読むなんて、相当興味がある人以外しないと思うのですが、こうしてイラストになっていると、すごくわかりやすいですね。
境内の様子
海龍王のご加護を受けたお寺なので、門の前には海龍王の描かれた絵馬が。
この門をくぐると参道です。
ひっそりしています。
別の世界に通じていそうです。
山門をくぐると左手に受付がありますので、そちらで拝観料を支払いました。
本堂
こちらの本堂、建物自体は江戸時代のものですが、奈良時代の中金堂の場所を踏襲しています。
簡単な配尊図を作成しました(細かい部分は割愛しています。記憶が薄れている部分もありますので、参考程度にお考え下さい)。
印象に残った仏像の感想を記します。
十一面観音立像
超有名な十一面観音ですね。
光明皇后が自ら彫ったものをもとに、鎌倉時代に慶派の仏師が造立したものだそうです。
春と秋の特別開帳時しか拝観できない(完全に扉が閉じている)のかと思っていたのですが、普段でも戸帳越しであれば拝観可能でした!
しかも、すぐ近くまで寄っての拝観が可能(お寺の場合、遠くからの拝観になることが多いので、仏像好きにはうれしい)。
戸帳越しですと、頭上の11のお顔や、光背は見えないのですが、視線を合わせることはできましたし、お身体もしっかり見ることができました。
とても美しいです。
慶派の特徴も随所に現れていました。
つやつや、すべすべ、金泥のお肌がほんのり光っているような感じ。
今にも風に揺られそうな、青みがかかった衣。
衣に施された金の紋様にも思わず「ほう」とため息が出ます。
(昭和28年?まで秘仏だったので、紋様などはかなりきれいに残っているそうです。本堂内の説明書きより)
仏像の写真はこちらから。
文殊菩薩
獅子には乗らず、立っておられるタイプです。
正面に立つと、よどみのない白目にドキッとします。
何もかも見通していそうな視線でした。
知的で冷静さを失わない、そんな印象。
白毫(眉間の白い丸。丸に見えるが、実は長い毛が渦巻いたもの。常に光を放っている)が、照明を反射し、本当に光っているように見えました。
ずっと見ていると白毫に吸い込まれそうでした。
仏像の写真って、有名な写真家の方が撮ったものだったりするので、写真を見てから実物を拝観すると「あれ?」となったりすることが多いような気がします。
でも、こちらの文殊菩薩像は、写真より実物のほうが雄弁といいますか、訴えかけてくるものがあるお姿でした。
番外編 前住職が彫られた八十八箇所霊場のご本尊
個人的に見入ってしまったのは、海龍王寺の前住職が彫られたという仏像たち。
この仏像たち、サイズは比較的小さい(高さ10~20cmくらい??)ですが、八十八体(たぶん)もあって、心に迫るものがあります。
いわゆる「八十八箇所めぐり」のお寺の各ご本尊を刻んだものなんです。
如来だったり不動明王だったり涅槃像だったり、様々なスタイルの仏像が集まっていますが、同じ方が彫っていますので、全体的に統一感があります。
表情はいたってシンプルですが、それがまた素朴で好感が持てました。
仏像には彫った人の「何か(性格、何を大事にしていたか、など)」が表れますので、それもまた仏像観賞の楽しみの一つだなあ、と思います。
番外編2 海水
本堂の中央、十一面観音の手前に、全国から送られてきた海水が水色の透明容器に収められていました。
これぞ海龍王寺という感じですね。
腐敗しないのかななどと俗なことを思いましたが、海水(塩分濃度高い)なので大丈夫なのでしょうね。
東日本大震災で被災した地域のものもあり、「参拝者の方も供養のために祈ってください」的なことが書かれていましたので、手を合わさせてもらいました。
西金堂と五重小塔
境内の西側にある西金堂。
中を拝見してみると、五重小塔が!
しかも国宝です。
西金堂も五重小塔も、奈良時代の建造物。
ここはまさに奈良時代からの空間が残っているわけです。
よくぞここまで良い状態で残してくれた、という感じですね。
その他 境内の写真
ここでミツバチを保護しているらしいです。
近づけないようになっていました。
本堂拝観中も頭上で「ブーン」と羽音が聞こえたのですが、おそらくミツバチだったのですね。
こちらから攻撃しない限りは刺されることもないので、そっとしておきました。
中央に立っている石柱には「百度石」と書かれていました。
願掛けするときにこの石を起点に百回お参りする、というやつですね。
経典や文書を収める経蔵。
湿気にやられないように高床式になっています。
ちなみに、海龍王寺は般若心境写経の発祥地ともいわれているのだとか。
玄昉さんが般若心境の講釈を熱心に行われたみたいです。
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おわりに
正倉院展と同時期に行われる、秋の特別公開では、本堂が大混雑するらしいです。
十一面観音は、特別公開期間でなくても、戸帳越しに拝観可能ですので、混雑が苦手な方は、通常時のほうがおすすめかも。
混雑しているとあんまり仏像をじっくり観る気にならないので(正面で長時間陣取るのもアレですしね)私は通常時に行ってよかったです(本堂、いや、境内貸し切り状態でした)。
あと、夏から秋にかけて忘れてはならないのが虫よけ!
自然な雰囲気を残しているお寺ですので、蚊がかなりいます。
お寺で殺生は気がひけますので、表門に入る前に虫よけスプレーでガードしておくのがおすすめ。
私は虫よけを忘れて、歩きながらずっとぼりぼりやっていました。
かゆいと拝観もおろそかになりますのでご注意を。
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