奈良の鹿について語る
私はそこまで鹿に思い入れがあるほうでもないが、奈良市街地を歩くたびに鹿とすれ違っていると、人間と同じように個性があるなあ、と思うようになってきた。
奈良の仏像を主に語っているこのブログだが、本記事では奈良の鹿さんについて語らせてもらいたい。
信号待ちはもはや普通
以前、奈良の鹿の賢さを語るとき、「奈良の鹿はきちんと信号待ちをする」というエピソードがよく語られたように思う。
たしかに横断歩道で信号待ちをしている鹿さんの姿はさして珍しいものでもない。「まあ、普通」である。
横断歩道がない場所で、車と道の譲り合いをする個体も見かけたことがある。
道路を渡ろうとしている鹿さんに気づき、車が止まったのだが、その鹿さんは「いえ、お先にどうぞ」という感じで、まるで人間が背筋を伸ばすかのごとく、首をすっくと伸ばして待機していた。
車も「いやいや、鹿さんこそお先に(万が一事故になっても、ねぇ)」という感じだったのだけど、鹿さんも「いえ、待ちます」というスタンスだったので、車のほうがおそるおそる通り過ぎて行った。
そのあと、鹿さんはゆったりと通りを渡って行った。
その姿は「神の使い」であることに納得してしまうような、気品あふれる姿であった。
そう、以前はこういう信号・車待ちでさえ「かしこいね!」という感じだったのだ。
お辞儀しぐさの流行
いつ頃からだろうか、鹿さんたちがせんべいをねだるときにお辞儀をするようになったのは。
たぶん、外国人観光客が急増してからだと思う(私の観測範囲では)。
日本を代表するしぐさのひとつ、「お辞儀」を鹿さんがすると、外国人観光客がたいへん喜ぶのである(もちろん日本人観光客も喜ぶけれど、外国の方からするとよりインパクトがあるっぽい。老若男女問わず子どもに戻ったみたいにキャハハハと声を上げて喜んでおられる)。
見ず知らずの人とはいえ、だれかが楽しそうなのは喜ばしいことなので、「よかったねえ」と横目で見つつ、鹿さんの首がお辞儀疲れでヘルニアとかにならないか心配したりもする。
そうして多くの鹿がお辞儀をくり出すようになり、信号待ちに加えてお辞儀すらも「普通」になってきた。
お辞儀芸、さらに進化す
先日、春日大社の参道を散策していたときのことである。
萬葉植物園を過ぎ、ニノ鳥居に向かって参道をすたすたと歩いていた。
すると、高台にある燈籠の間からぬっと鹿さんが登場。
で、この鹿さん、台の上に立ったままお辞儀をし始めた。
所作があまりにも洗練されていて、ステージ上で芸事を披露する「演者」みたいだった。
両サイドの燈籠も、舞台装置であるかのごとく、いい演出をしている。
鹿のお辞儀姿を見慣れている私ですら、「ほ、ほう」と足を止めて見入ってしまうほど。
とうぜん、海外からの観光客の皆さんは「ワァオ!!!」である。
おじさまも鹿にメロメロな様子でせんべいを与えていた。
で、このやりとりを見ていて気付いたのだが、ステージ上での芸は鹿さん側にもメリットがありまくるということ。
・高い場所だから一度に多くの人に見せることができる
・お辞儀のときに頭を下げすぎなくていい
・せんべいをもらうときも姿勢がラク
・他の鹿にせんべいを横取りされる心配もない
・疲れたらひっこめばいい(高台なので人間が追いかけてきにくい)
か、か、かしけ~!
さて、鹿さんの賢さに感心しながら本殿へ。
参拝後のおみくじで大吉を引いたので、その勢いで金龍神社に赴き「さいきん買った株が上がりますように~」などと他力本願ぶりを発揮した私である。
そうして戻ってきたら、鹿さんはまだファンサービス中であった(少なくとも20分は経過していた。顔かたちから同一の鹿さんだと思われる)。
改めてこの写真を観ていて気付いたが、写真の構図としてもおそらく絶妙である(通常は人間がしゃがむなどしないと同じ目線にならないので)。
もはやプロの鹿さんである。
鹿さん自らファンサービスをして報酬(せんべい)をゲットしているというのに、「株があがりますように~」なんて、のんきにお願いしている自分を恥じた(いや、まあ、株も大事だけど)。
もちろん、個体差あり
この記事を読んでくださった方は、「奈良の鹿って、こんなに賢いんだ~!」と思われたかもしれない。
たしかに奈良の鹿は賢い。
が、人間に個性があるように、鹿にもまた個性がある。
傍若無人に道路に飛び出してしまう者ももちろんいる。
「もっとくれもっとくれ」とせんべいめがけて突進していく者も多い(むしろこっちが多数派)。
もしかすると、経験値の少ない若い個体はそうなりやすいのかもしれない。
まあ、つまるところ、奈良の鹿は賢いからといって、あまり期待値を上げすぎないでやってほしい。
芸を引き出そうとして何度もお辞儀させるなど、せんべいをじらすと鹿も怒って必死になることが多いように思うので、できればお控えいただきたい。
せんべいをさんざんじらしてからの「もっとくれ」攻撃に発展、悲鳴を上げながら逃げ惑う方をよく目にしますが……あれは遠目に見ているほうもなんか悲しいのよ。
本来はお辞儀など求めてはいけないのである、あくまで野生の鹿なのだから。
「神の使い」という役どころから願いを聞いてくれそうな気がしてしまうのはわかるけれども。
だからこそ、もしもお辞儀をしてくれたのなら、速攻でせんべいを差し出すようお願いしたい(そもそもこの記事は英語で書かないと意味ないか……私の観測範囲では海外の方のほうが圧倒的に多いので)。
(参考)上手な立ち去り方/せんべいのご利用は計画的に
鹿さんとのふれあいを楽しんだ後は、スマートな立ち去り方をしたいもの。
先述したが、前提として、せんべいをじらさない。
(じらしているうちに他の鹿さんも「なんだなんだ」と寄ってきて四方を囲まれて身動きがとれないことになりがち)
立ち去りたいときは、せんべいを適切なサイズに割って、鹿さんにチラッと見せながら、少し離れた地面においてやるとよいです(数頭いる場合はそれぞれの鹿さんに)。
こうすると鹿さんは「一旦地面を見る+せんべいを咥える+咀嚼する」動作に入るので、時間ができます。この隙に静かにじわじわと離れ続けておけば、そうしつこく追いかけてくることはないと思います(大量の鹿さんに囲まれた状態だと難しいのですが)。あと、目を合わせないのもコツ。
まあ、これをやるためには、せんべい1~2枚を退陣のためにとっておく必要があるので、せんべいのご利用も計画的に、ということですね。
ここまで堂々と書いてしまったが、あくまで個人的観測によるものであることを追記したい。
鹿さんとの正しい戯れ方は公式見解をご覧ください。
(参考)
観光客が多いエリアでは、せんべいを与えられすぎて満腹、せんべいに見向きもしない鹿さんもいたとのこと(桜シーズンに鹿とたわむれた友人からの情報)。
せんべいの授受を楽しみたい方はせんべいの販売場所から少し離れた場所がおすすめかもしれない。
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